60代からの医療費不安を軽減!高額療養費制度と医療費控除の賢い活用法
年齢を重ねるにつれて、医療費に対する漠然とした不安を感じる方は少なくありません。特に60代以降、パート収入で家計をやりくりされている場合、もし大きな病気やケガをしてしまったら、どれくらいの費用がかかるのだろうかと心配になることもあるでしょう。
しかし、ご安心ください。日本では、医療費の自己負担が過度にならないように、国が定めた大切な制度があります。「高額療養費制度」と「医療費控除」です。これらの制度を理解し、適切に活用することで、いざという時の医療費負担を大きく軽減することができます。
医療費の負担を減らす二つの柱
医療費の負担を軽減するための公的な制度として、主に「高額療養費制度」と「医療費控除」があります。それぞれの制度の仕組みと活用方法を詳しく見ていきましょう。
1. 高額療養費制度とは?
高額療養費制度は、一ヶ月にかかった医療費の自己負担額が、一定の金額(自己負担限度額)を超えた場合に、その超えた分の金額が払い戻される制度です。この制度があるため、例えば数百万円の手術をしても、自己負担額は所得に応じた上限額までで済みます。
制度の仕組み
自己負担限度額は、年齢や所得によって異なります。例えば、70歳以上で年収が約156万円から約370万円未満の一般所得者の場合、一ヶ月の自己負担限度額は「18,000円」または「外来の場合は18,000円、入院・高額医療の場合は57,600円(多数該当の場合は44,400円)」といったように細かく定められています。ご自身の正確な限度額は、加入している健康保険組合や市町村の窓口で確認できます。
利用の流れ
- 事前に手続きをする場合(限度額適用認定証): 入院や高額な治療が予定されている場合は、事前に加入している健康保険組合や市町村の窓口で「限度額適用認定証」を申請し、医療機関の窓口に提出することをおすすめします。これにより、窓口での支払いが最初から自己負担限度額までで済み、一時的な高額な支払いを避けることができます。
- 事後に手続きをする場合: 医療機関の窓口で一度医療費の全額を支払い、後日、加入している健康保険組合や市町村に申請して払い戻しを受けることもできます。医療機関から送られてくる「医療費のお知らせ」などを参考に、申請書を提出します。申請には時効があるため、早めの手続きが大切です。
注意点
- 健康保険が適用される診療が対象です。差額ベッド代、先進医療にかかる費用、入院中の食事代、診断書などの文書料は対象外となります。
- 複数の医療機関にかかった場合や、同じ世帯内で医療費を払った人が複数いる場合は、それらの医療費を合算できることがあります。
2. 医療費控除とは?
医療費控除は、自分や生計を一つにする家族のために医療費を支払った場合、その金額に応じて所得税や住民税が軽減される制度です。高額療養費制度とは異なり、こちらは「税金の控除」であり、年間を通じて支払った医療費の合計額が対象となります。
制度の仕組み
1年間(1月1日~12月31日)に支払った医療費の合計額が、一定の金額(原則10万円、または所得の5%のいずれか低い方)を超えた場合、その超えた部分が所得から控除されます。これにより、課税される所得が減り、結果として所得税や住民税の負担が軽くなります。
対象となる医療費
健康保険が適用される医療費だけでなく、以下のような費用も対象になる場合があります。
- 医師や歯科医師による診療や治療の費用
- 薬局で購入した医薬品の費用(市販薬も、医師の処方や治療のために必要なものであれば対象となる場合があります)
- 通院のための交通費(電車、バスなどの公共交通機関の運賃)
- あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による施術の費用
- 介護保険サービスの一部費用(医師の指示に基づくものなど)
利用の流れ
医療費控除を受けるためには、翌年の2月16日から3月15日までの間に、確定申告を行う必要があります。
- 医療費の領収書を保管する: 1年間にかかった医療費の領収書や、病院からもらう「医療費のお知らせ」などをまとめて保管しておきましょう。
- 確定申告書を作成する: 税務署の窓口で相談したり、国税庁のウェブサイトにある確定申告書作成コーナーを利用したりして、申告書を作成します。
- 申告書を提出する: 税務署に郵送するか、e-Tax(電子申告)で提出します。
注意点
- 高額療養費制度で払い戻された金額は、医療費控除の対象となる医療費からは差し引いて計算します。
- 家族の医療費を合算する場合、生計を一つにしていることが条件です。同居している必要はありません。
高額療養費制度と医療費控除の賢い併用
高額療養費制度と医療費控除は、どちらも医療費負担を軽減する制度ですが、その性質が異なります。高額療養費制度は「自己負担限度額を超えた分の払い戻し」であり、医療費控除は「税金の負担軽減」です。
重要なのは、これらの制度は併用できるという点です。例えば、高額療養費制度で払い戻しを受けた後の自己負担額が、年間10万円を超えた場合、その金額を医療費控除の対象とすることができます。
医療費を記録する習慣をつけましょう
これらの制度を最大限に活用するためには、医療費の記録をしっかりつけておくことが非常に重要です。
- 医療費を支払ったらすぐにメモする: いつ、誰が、何のために、いくら支払ったかを簡単な家計簿やノートに記録しましょう。
- 領収書や明細書を保管する: 病院や薬局でもらう領収書や明細書は、なくさずにまとめて保管してください。確定申告の際に必要になります。
- 「医療費のお知らせ」を活用する: 健康保険組合などから送られてくる「医療費のお知らせ」は、ご自身の医療費の記録を確認するのに役立ちます。
まとめ:将来のお金の不安を具体的な対策に
60代からの生活は、健康寿命を長く保ち、自分らしく暮らすための大切な時期です。医療費に関する不安は、こうした生活設計の大きな妨げになることもあります。
今回ご紹介した「高額療養費制度」と「医療費控除」は、もしもの時に私たちを支えてくれる、心強い味方です。これらの制度を正しく理解し、医療費の記録を日頃からつけておくことで、いざという時の負担を軽減し、将来への漠然としたお金の不安を具体的な安心に変えることができます。
ご不明な点があれば、お住まいの市町村の窓口や、加入している健康保険組合、または税務署に相談してみましょう。知ることから、安心への第一歩が始まります。